武器になる哲学 なぜ哲学を学ぶべきか
『現象学』なる哲学が世の中の本質を知る武器になる。そう『センスメイキング』には語られていたけど、肝心の現象学がどんな考え方でどう実践すべきものかは多く語られず、消化不良。
現象学の専門書のAmazonレビューを覗き見しても、フッサールの著書をいきなり読み始めるにはかなり難読な印象。それ以前の哲学の研究成果を知らないとこれまた消化不良になりそうです。
手始めには簡単に哲学史全体を眺めながらそれぞれの考え方の特徴をかいつまんでみてみたい。そう思って手にしたのが本書でした。
著者はボスコンやP&Gにもいた元コンサルタントの方で、哲学の専門家ではない立場から、ビジネスパーソンに役立つ哲学を紹介する、というコンセプトです。とっつきやすそうです。
今回は、巻頭にあるビジネスパーソンが哲学を学ぶ4つの意味をご紹介します。
その1 状況を正確に洞察できるようになる
その2 批判的思考のツボを押さえられる
その3 課題を設定できる
その4 過去の悲劇を繰り返さない
その1 状況を正確に洞察できるようになる
過去の哲学者が向き合ってきた問いは「世界はどのように成り立っているのか」という「Whatの問い」と「その中で私たちはどのように生きるべきなのか」という「Howの問い」の二つ、に整理されるそうです。
古代ギリシャの時代から今日まで、ずっとこの問いを考え続け、今でもまだ万能の答えには至らない状況です。これはその時代時代にあった新しい社会が現れるに連れ、過去の答えが通用しなくなり、新しい概念がその度に考え出されてきた哲学の歴史そのものと考えられれます。
現在を生きる私にとって、今目の前に起きている問題は、この時代特有の側面も持ちながら過去の歴史を繰り返したり極めて近似したものであったりもしています。
"目の前で起こっていることが、一体どのような運動なのか、これから何が起きの課をより深く理解するために、過去の哲学者が提案した様々な枠組みやコンセプトが、その一助になります。"
"「今、何が起きているのか、これから何が起きるのか」という問いは、ビジネスパーソンが向きあわなければならない問いの中でも最重要なものでしょう。このような重要な問いについて考察する際の、強力なツールやコンセプトの数々を与えてくれるのが哲学だということになります。"
その2 批判的思考のツボを押さえられる
ビジネス環境は常に変化します。そんな当たり前のことがなぜ難しいかというと、変化には必ず「現状の否定」が伴うから、です。難しいのは新しい考え方、やり方を始めることではなく、現状の何かを批判し終わらせること、だと。
筆者のこの指摘には少なからず頷いてしまいました。何を終わらすか、という視点で物事をフォーカスすることがあまりできていない気がします。つまり、批判的な思考に慣れていない、ということです。
"「自分たちの行動や判断を無意識のうちに規定している暗黙の前提」に対して、意識的に批判・考察してみる知的態度や切り口を得ることができる、というのも哲学を学ぶメリットの一つ"
その3 課題を設定できる
"イノベーションの停滞が叫ばれて久しいですが、停滞の最大の原因になっているボトルネックは「アイデア」や「創造性」ではない、そもそも解きたい「課題=アジェンダ」がないということです。"
"イノベーションは、常に「これまで当たり前だったことが当たり前でなくなる」という側面を含んでいます。""一方で全ての当たり前を疑っていたら日常生活は成り立ちません。"
哲学という教養が、"普遍性がより低い常識、つまり、「今ここでだけ通用している常識」を浮かび上がらせる"レンズになる。
その4 過去の悲劇を繰り返さない
過去の惨劇は私たち「普通の人々」によって引き起こされている。哲学はまた過去の惨劇がなぜ起きてしまったのか、私たちのどんな振る舞い、考え方がそれを招いたのか、明らかにしています。
そして今の世の中を動かしているのは哲学者ではなく、ビジネスパーソンです。だからこそ、ビジネスパーソンが哲学を知り過去の過ちを繰り返さないこと、それが重要なのです。
以上が、今、哲学を学ぶメリットとして紹介されています。
さらに本書がユニークなのは、一般の哲学ガイドが哲学史の順を追ってその時代時代の考え方を紹介していくの通例なのを、「これはビジネスの実践で役に立つ」と筆者が感じた50のコンセプトを、独断で以下の4カテゴリに分け順に解説している点です。
第1章 「人」に関するコンセプト
第2章 「組織」に関するコンセプト
第3章 「社会」に関するコンセプト
第4章 「思考」に関するコンセプト
次回、はこれら50のコンセプトのうち読み進めたいくつかをまとめていきたいと思います。